2006年10月28日

# 156 OX [学芸大学]



 カフェな雰囲気のハンバーガーショップ――と言えば、代々木公園のARMSはその代表格だろうか。この秋9月、同じくカフェな雰囲気を目指した居心地好いお店が学芸大学にオープンした。



 住所は目黒区鷹番――とくれば、東横線開通以来の住宅地。商店街から一歩入り込むと、古めかしく厳めしい面持ちの家々が重たく並んでいる。新しいものなどおよそ発信しないだろうこの古い住宅街の中に、この店は在る。駅歩5分。以前はイタリアンが入っていたマンション1Fを丸々使った広い店内。30余席、座り心地の好い赤い椅子とアイボリーのテーブルの組み合わせが並び、一番奥にはソファが壁幅いっぱいに配されている。壁を飾る白黒写真はこの店のデザイナーお気に入りの、サンタモニカのホテル。西海岸の明るく心地好い空間をイメージしたインテリアデザインは、どこかリゾートな、開放的な空気を生み出している。BGMにはブラック系が実に耳障り良く鳴っていたのだが、ふと見上げるとソニーのスピーカーだった――BOZEより断然好きかも。



 コノ店最大の注目――と言えば、自前で焼いているバンズ。国内にバーガーショップ数あれど「バンズを自給できている店」というのは恐らく幾つも無い筈である(つい先日の神戸屋レストランやホテルなどを除けば、佐世保のミサロッソぐらい?)。バンズはラーメンにおけるに相当すると言ってよい(もちろん値は違いますが)。麺は製麺所が作るのに同じく、バンズはパン屋がそれを請け負っている。窯などの設備の問題、それと同じくらい手間の問題が大きいだろう。コノ店の場合、オープンキッチンの中央にオーブンが設置されている。そう大きくはないので一度に焼けるバンズの数は20くらいだろうか――多くはない。オーブンの下には引き出しが何段も付いており、中には発酵中のパン生地が入っていて、発酵の様子を見て順次オーブンに入れてゆく……という作業を時間を計りながら延々と繰り返す。ひとつ計算を間違えるとバンズを切らしてしまうことになるのだから、これは大変だろう。焼き上がったバンズはツヤ消したような皮の感じが非常に食欲をソソる色合いで、生地は若干黄色みがかっていたか。割りとあっさりとして食べやすく、重くない。なかなかツボを得た一品である。



 次に特筆すべき――とくれば、メニュー。バーガー類30種、そのメニュー体系および数種のソースから選択させるところなどは、都内最高峰BROZERS'に息を呑むほどよく似ている。赤い唐辛子マークまで似ているのには流石にビックリ……。とは言え、BROZERS'そっくりのコピーバーガーが登場するワケではなく、結果的にまた違う味を目指しているようでもあり、参考にされるのは「王者の証し」と思って>BROZERS'、ここはひとつ……。ま、そんだけ注目されてるってことですな。非BROZERS'的メニューとしては、フォアグラを挟んだロッシーニバーガー\1,750やアスパラバーガー\1,100など――オックスの個性と発展はこれから。



 BROZERS'でもお馴染み――とくれば、パインチーズバーガー\1,150。バーベキューorトマトソースの二択はBBQを。直径は小ぶりな部類だが、高さが半端でない。上からスキュアでひと突き。ソースの垂れ具合といい、DEMODE DINERの背高のバーガーを思い出す。ソースを一方からのみ垂らすのが技術と演出。バンズはてっぺんのみ僅かにテカり、美味しそうな白ゴマが乗る。裏はサクッとコンガリ。中は一番上からソースが存分に滴り、モッツァレラチー、軽く鉄板の上に乗せたパイン、パティ、生オニ、これでもかというくらい分厚いトマ、ふんだんに畳み込んだレタ、下バン。BBQソースは案外甘め。それほどピリ辛くない。粗く挽いたパティはZIP ZAPを思い起こさせるミディアムレアな焼き加減でむしろステーキに近い味わい。香辛料の鋭い香りがよく効いて極めて強い牛肉の余韻を残す。但しレアな焼き方ゆえ温度が低く、アッツアツを口にする(かつ手に持つ)醍醐味には欠ける。レタスの畳みは良好、贅沢この上ないトマトの厚味とともにこのバーガーの下半分を構成するのはこれら新鮮野菜。但しこちらもバーガーに挟むにしては少し冷え過ぎているうえ(パティの温度も関係するか)、水気が多いため、袋の隅にずい分と汁を溜めることになる。パティだけ見ればかなり美味しいのだが、しかし下半分=野菜との連携が今ひとつで、今だと上は上、下は下にそれぞれを味わう二重構造に近く、BBQソースがぐるっと全体に回り込むようなトータルなバーガーの味わいにまでは辿り着いていないようだ。実際これだけソースをかけていながら、多過ぎる野菜がソースの味を薄めている部分もある。野菜で背の高さを出そうとするあまり、バランスが悪くなっているのだ。出来たらチーズとパインにもひと工夫を。パティの後味はとにかく素晴らしく、いつまでも肉らしい余韻が口中に続く。その余韻を程好いところでリセットさせるかのように、よく漬かったコーニッションとらっきょが後味キュッ!



 後日再訪すると、温度の低さをチーフ自身やはり問題視してトマトを軽くグリルしたうえ、挟む順番をパティの上に持って行く改良を加えていた。パティも前回より少し強めに焼いていたか。この日はトマトソースで食べたくて、トマトに一番合うバーガーを――と普段頼まぬアボカドチーズバーガー\1,200を選ぶと、何時間とかけて鍋で煮込んだ自家製トマトソースとチーズががっちり噛み合う安定感の中(王道デス)、ソースのライトな酸味がバーガー全体に行き渡ってサラダを食べている感覚にも似た爽やかさと、しかし一方では噛み心地がしっかり程好いパティの旨味に黒胡椒のピンとした刺激がよく効いて、肉・野菜それぞれの美味しさを楽しめる面白いバランスのバーガーを食べることができた。アボカドの存在もさることながら、やはりトマトの工夫が奏功しているだろう。コチラ……断然トマトソースがオススメ!(以上2006.11.6追記)



 気の合う仲間が集まって――居心地好い店内で気の向くままに寛いでいただけたらと、そんな店を目指してオモテ通りから入ったコノ静かな立地を選んだ。「ジワジワと浸透してゆけば」とはコックコートに袖を通すのは初めてという若きチーフの言葉だが(※今まで違うもの調理してたんです)、ぜひこの寛いだ空気をキープしながら「ハンバーガーのある暮らし」をじわじわ広めていっていただけたらと、「雰囲気」と「バーガー食普及」の両立を心より願う次第。流行るとごった返すし、難しいトコですが……。自家製バンズとステーキのように美味しいパティを武器にどんどん行きましょ!経営は……忘れてしまった。とにかく中堅外食企業が母体。


※2007年4月30日、早くも閉店。う〜ん……参りましたね。そんなに退き鉦早く鳴らされても……。


― shop data ―
所在地: 東京都目黒区鷹番3-18-7
      東急東横線 学芸大学駅歩5分 地図
TEL: 03-3716-2811
オープン: 2006年9月
営業時間: 11:00〜22:00(21:30LO)
定休日: 火曜日(要確認)


2006.10.28 Y.M

posted by ハンバーガーストリート at 20:52| Comment(4) | TrackBack(0) | 東京編◆東部 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは!

先日、OX行ってきたのですがこちらのオススメのトマトソースにすればよかったみたいです・・・

BBQソース好きなのでそちらを選んだのですが、おいしいけど印象に残らないハンバーガーでした。
また、リベンジします。
Posted by ミゥ at 2007年02月01日 18:27
ミゥさま

コメントありがとうございます。

そんなわけで、確かにこちらはトマトソースが個性的で、他に無い感じです。私が食べたときから、さらにおいしくなっているんじゃないかと期待しているんですが、さて…。
Posted by 2年後カフェ計画 at 2007年02月04日 23:42
はじめまして。
近所に住んでいるので情報です。
OXは5月で閉店したみたいです。
業態を変えて、ハンバーグ屋さんになるようです。
Posted by ごし丸 at 2007年06月22日 13:32
ごし丸 様

コメントありがとうございます。

そうなのですよぉ。「4月の終わりに閉店」という情報は知っていたのですけど、何と言いますか、なかなか書くのが忍びなくてですねぇ……

やはりバックに企業が付いていると撤退も早いですね。個人のお店だとこうはゆかない。

これでしばらくは、ごし丸様のご近所にはハンバーガー店は「出し難い」かも知れませんねぇ。


そんな次第でまたよろしくお願いいたします。
Posted by ハンバーガーストリート at 2007年06月23日 14:25
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