2006年10月16日

# 154 神戸屋レストラン



 「パンとパンに合う料理を提供する店」と言えば、「アンデルセン」もさることながら、この神戸屋レストランを忘れることはできない。サイト中の「レストランへの道のり」というページに、パン食普及に向けたこれまでの取組みが記されている。

 1970年、万博への「空中ビュッフェ」出店を経て'75年「パン料理の本当のおいしさ、楽しさを味わっていただくため」、西宮に郊外型のベーカリーレストランをオープンさせた。

 '75年といえば日本の外食産業の黎明期……とまるで見てきたようなことを書くけれど、しかし私にはこの頃まだ確たる記憶はない。'70年7月「すかいらーく」1号店(東京国立)、'71年12月「ロイヤルホスト」(北九州黒崎)、'73年6月「アンナミラーズ」(東京青山)、'74年4月「デニーズ」(横浜上大岡)――と、主だつレストランの出店は70年代前半に集中している。デパート最上階の「お好み食堂」が近所にやって来た――というのが、ファミレスに対する当時の感覚だったそうなのだが(立川「BRIDGES」店主談)、私がよく覚えているのは、「家族で外食する」ということ自体が当時はひとつの贅沢だったということである。ファミレスすらキラキラと輝いて見えた――と言えば、共感していただける同世代のビュアーもきっと多数いらっしゃることだろう。

 とにかくある時期までのファミレスは、店舗もサービスの内容もエラクしっかりとしていた。この神戸屋レストランも、本場米国の様式を取り入れたかの様な大きな造りで、関東1号店である成城店('85年オープン)も、オレンジ色の瓦屋根に高い天井、大きくとった窓ガラスの外には緑が配され、ケヤキの巨木が周囲を囲んで、ゆとりと落ち着きを感じさせる。当時のキラキラとした輝きを今日なお持つ店である。但し成城学園前と京王線の仙川駅とを結ぶ、古くて細いバス通りギリギリに敷地が張り出す恰好ではあるのだが。

 入ると手前にパンとケーキの売り場。黒い目地が鮮やかなお馴染みの白いタイル壁がドーンと視界に飛び込み、独特の甘いパン生地の匂いが押し寄せる。奥がレストラン。オープンキッチンには無数のコック帽が忙しく揺れている。祝日のこの日、店内は午後2時を過ぎてなお家族連れで満員。さすがに場所柄がよろしくてか、どの席の子供も概ねよい子にしていた――ヨシヨシ。

 「ご家族でもより豊かなパン料理をお楽しみいただけるよう、時代や季節の変化にそった新しいメニューを開発し、ご提案しています」ということで、この9月より新たに加わったのがフレッシュビーフ100%のグルメハンバーガー¥1,260。

 チラとお聞きした話によれば、自分んトコで焼いたパンと定評あるハンバーグステーキを使い、ハンバーガー風に仕立ててみた――という程度の、割りと気軽な発想のもと生まれたメニューらしく、その気負いの無さと言うか、「皿の上のモノ全部積んじゃえ!」的な単純な動機が如何にもハンバーガーらしくて、かえって好きである。ちなみにバーガーに代わりレギュラー落ちしたのがカツサンドと言うから、カツサンド派からはさぞや恨みを買っていることだろう。付け合せはフレンチフライ少々にクレソンひと挿し。

 食パン神戸屋スペシャルの生地で作った大きめなバンズはふか系。ツヤのあるしっとり目の皮で、身は黄色く弾力があり甘目。裏にちょろとバター、アボカド×2の上からマヨネーズソース、チェダーチーズの上から弱い酸味を帯びた特製ソース、パティ、ベーコン、レタス、トマト、ヒール(下バンズ)。

 かなり大きなバンズながら、具材満載のためバランスとしてはむしろ足りないくらい。中でもパティが非常に大きい。神戸屋自慢のこのハンバーグノド越しよろしく柔らかく、2度挽きだけあり確かに食感良好。時おりキッチンから恐ろしく高速なパタパタ叩く音が聞こえてくる。しかし味としてはベーコンの方が勝っていて、どうしても注意はそちらに向いてしまう。とは言えこのベーコンも程好く抑えた塩加減の、旨味を感じられる逸品なのだが。

 フレッシュなレタスの美味しさも気持ち良く、個々にはどれも美味しく感じられるのだけれど、どうもハンバーガーとしての総合的な美味しさという点は、見た目ほどには追求されていないようだ。バンズのサイズはそのままに、もう少し中身を少なくした方がバランスは釣り合うだろう。今の比率だと食べる途中でバンズだけ先に無くなって、あとは肉と野菜――という感じに近い。

 水分量が多いバーガーでもあるため(ソースも豪快に掛けてあるし)、下バンも具材の重量を全く支え切れていない。それに折角の神戸屋自慢のパンの味や香りが、このバランスではむしろ相殺されてしまっており、「パンとパンに合う料理を……」という真価が今ひとつ発揮されていない。

 その点惜しまれるものの、しかし見た目どおりの非常に豪勢な一品なので満腹感は相当パック(袋)は供されず。しかし皿から持ち上がらない類のバーガーである。こんなときナイフ×フォークを使うと、折角のふっかりバンズをやおら潰してしまうことになるので、非常によろしくない。何か良い"手"はないものか……。

§ §

 神戸屋スペシャルの生地はイーストフード・乳化剤無添加と言うから、あの茨木くみ子先生もびっくり! それでいて、どうしてあんなにふっくらと焼き上がるのか……実に不思議で興味深い。

 パンをカゴに山盛り抱えたスタッフが店内を回っているのが気になる方は、手づくりパン¥210を頼めばお代わり自由! コノ店の醍醐味はやっぱりコレ! 関東・関西に20店舗、BGMは真に正統なるインストゥルメンタル。




【フィッシュバーガープロジェクト】 神戸屋レストランの真鱈のフィッシュフライサンドイッチ

2006.10.16 Y.M

posted by ハンバーガーストリート at 22:18 | TrackBack(0) | ファミレス・外食編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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