2006年09月05日

# 149 American Spirits M.K.Y [函館]



 話は前回から続く。札幌のハンバーガーリサで一緒になったお客さんの1人・A氏が「自分も函館でハンバーガーショップをやっていた」と言い出したのである……またしてもえーっ!


●A氏のこと

 A氏の店はクーチークーチーと言い、五稜郭の近くにあったが、故あって閉店せざる得なくなり、その後は臥薪嘗胆、再興を期して札幌で働いていた。それが今秋10月、すすき野にオープンするアンチというメキシカン/テックスメックスの店のシェフに迎えられることとなり、晴れてバーガーも復活させられる運びとなったそうなのである――めでたし!目出度し!(このA氏については、また別に一編を設けねばなるまい)で、その元クーチークーチーのA氏が函館時代、店のことなどをよく相談していたのが、このアメリカンスピリッツの大平マスターだった。



●大三坂近く

 函館で一番有名な坂、八幡坂(はちまんさか)と日本の道百選にも選ばれた名坂、大三坂(だいさんざか)の間にある。大三坂を上れば、上はハリストス正教会やカトリック教会などの建つ元町の街並み、下れば金森倉庫や西波止場などのウォーターフロント。人気観光スポットを結ぶ中間にあって、しかし周囲はさほど騒がしくない、意外や好立地ではないかと思う。



 室外機こそホットピンクに塗ってあるものの、両開きの赤い扉を一歩潜れば、すっきりと要所を押さえたスタイリッシュなアメリカン。不必要にコテコテさせていない辺りに清涼感を覚える。お決まりのジュークボックスにアンティークなキャッシャー、天板のエラク分厚いダイニングテーブル。天井に揺れるファン。そしてカウンターの壁にはエルヴィスやらバディ・ホリーやらのジャケがずらり。席数にして20ほど、マスターは「狭い」と言うがなかなか手ごろなサイズで、どこか居心地好いガランとした空気が漂っている。好きな空間だ。



エルヴィスやらバディ・ホリーやらのジャケがずらり


 17時からの夜のお店。日曜のみ昼12時から営業。昼は函館山の背後から照り付ける陽射しが向かいの店にモロに反射して照明要らず、店内非常に明るい。この陽射し、札幌を歩いている頃から何かヒリヒリするな……と思ってはいたのだけど、よく考えてみれば北海道は緯度が高いので、それだけ太陽の南中高度が低くなるわけである。なので東京と比べ、常にヨコから差し込んで来る感じになり、しかも遮る建物も少ないので容赦がない。湿度低く、空気は涼しいが、それでも今年は「夏らしい夏だ」と地元の人も言っていた(正確にはリサのマスターの言)。



●本牧のリキシャルーム

 でさて、コノ店のマスター、これがまたなんと!横浜は本牧(ほんもく)の歴史的名店リキシャルーム(RICKSHA ROOM)で6年ほど働いていたと言うからビーックリ!……ホントこの取材、"仕込み"というものが一切無いもんでネ……

 リキシャルームは'61年、アメリカ人の船員が日本人の奥さんと始めたダイニングバーで、接収当時は上官クラスの米兵が食べに来る"イイ店"だったという。解除後はメリケンっ気求めて横須賀からも米兵が食べに来た。もちろん古き良き当時の空気を知るオールドな邦人ファンも数多く、「本牧と言えば……」とまさに代名詞的存在として語られる老舗である――なにせ行ったことのない私だって名前知ってんだから。

 そんな歴史ある店の厨房にマスターがいたのは、米軍横浜海浜住宅地区の接収が解除された後の時代のこと。3年腕を揮い、同じ本牧のL.A.S.Tから引き抜きのオファーがあったのを機にリキシャルームを離れるが、辞める際にはオーナー夫人から惜しまれたという。L.A.S.Tにはオープニングスタッフとして店舗の工事段階から関わり、こちらにも約3年(現在L.A.S.Tはワールドポーターズに移動。現在本牧の同地はSTEAK HOUSE JO'Sとして営業中)。


●ピザの秘密

 結婚を機に道南に復帰。函館でさらに5、6年働いて'02年に独立、アメリカンスピリッツをオープンさせた。リキシャルームと言えば四角いピザ。なのでアメリカンスピリッツのピザももちろん四角い(長方形)。なぜリキシャのピザが四角いか、そもそも誰がどういう経緯で始めたのか、よく調べていないので判らないが、とにかく本牧界隈ではピザは伝統的に四角が定着しているようで、最近では上述のL.A.S.Tや、同じアメリカンハウス系列のMANGIA MANGIAなどが、その辺りを前面に押し出したピザを売っている。その本牧のピザがこんな形で函館に伝わって来たのだから面白い。そしてひょんなことからまた何処かへと伝わって行くのだろう――益々面白い。

 しかもこのマスターの凄いのは、メニューに本牧のホの字も出していないところだ。なぜココのピザは四角いのか――訊かれれば答えるが、しかし訊かれない限りは、あえて進んで明かすこともない。マスターに代わってこのピザの秘密を教えてくれたのは、隣に座っていた常連さんだった。

 なので本来ピザの文脈で語られるべき店かも知れない。そのピザ、形こそ四角を継承しているものの、味はリキシャから多少アレンジしていると言う。一方本題のバーガーの方の話だが、リキシャルームでは過去にハンバーガーを扱っていた時期もあるにはあったが、しかしマスターが居た頃には既に止めて無くなっていた。なのでアメリカンスピリッツのバーガーはリキシャルームの系譜でなく、マスターのオリジナル。



昼間もイイ感じ

●広大なパティ

 バーガー3種、ドッグ2種。中からハラペーニョの刺激的辛さがオススメのアトミックバーガー\1,200を。付け合せはナイスなフレンチフライにコールスロー。現れたのは大海原のように広大なパティのオープンフェイスに、トマト×2、生オニオン×2……偶然か、同じ横浜は中華街のウィンドジャマーを髣髴とさせる見た目だ。マスターもウィンドジャマーのことは知っていたが、しかし特に意識したわけでは無いそうだ。表面ザラッとした扁平バンズ、ケシもゴマもなし。

 ごっそり盛られたレタスの上にチュルーっと絞り出されたマヨネーズのコノ線の細さは、なるほどピザの使い手によるものであることを容易に想像させる。そう思えばモッツァレラチーズの間にオリーブのように顔を出すハラペーニョも、どこかピザ様。食べると、予告されていたほどには辛くなく、むしろベターッと無機質な辛さに味覚が麻痺されることなしに、ハラペーニョそのものの旨味をめずらしく感じることのできる、至極適当な辛さ加減。しっかり身の締まったパティを豊富な野菜の水分といただく。しっかしすごいボリューム。酒の場でもあるし、二人で半分ずつ分け合ってちょうどくらいか。

 そんなワケで、バーガーすら食べ切れずに宿に持ち帰ったぐらいだから、当然、名代のピザに挑むことなどとても出来なかった。残念……と言うか、「バーガーは別腹」なんて腹をとにかく私は持っていないので、あとは選択の問題のみになる。


●偶然の旅行者

 それにしても、札幌のハンバーガーリサで一緒になったお客さんの情報から函館のアメリカンスピリッツを訪ね(しかも何の気なしに前を通りがかっただけという偶然)、そのマスターが本牧のリキシャルームで働いていたというこの連鎖。この数珠繋ぎ――。

 そのリキシャルームは今夏'06年8月限りで45年の長い歴史に幕を下ろしてしまった。マスターはつい先日、オーナー夫人に挨拶をするため本牧を訪ねたそうである――マスターにとってリキシャルームとは、今日このアメリカンスピリッツへと至る"扉"を開いてくれた、心の拠りどころのような重要な存在だったのだ。

 ちなみに私は結局行けず……。しかしこの数珠繋ぎをココで終わらせてしまうのはあまりに勿体無い……と言うワケで次は本牧かな?(2007.3.24追記)


【最新情報】 11月28日、札幌・星置に「MKY」がオープンしました


― shop data ―
所在地: 北海道函館市元町31-24
      函館市電 十字街電停歩10分 大三坂近く 地図
TEL: 0138-23-3318
URL: http://www.americanspirits.net/
オープン: 2002年6月29日
* 営業時間 *
火〜土: 17:00〜24:00
日曜日: 12:00〜24:00
定休日: 月曜日(要確認)

2006.9.5 Y.M

American Spirits M.K.Y アメリカ料理 / 末広町駅(函館)十字街駅宝来町駅
夜総合点★★★★ 4.0

posted by ハンバーガーストリート at 12:13| Comment(1) | TrackBack(1) | 東国編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ご挨拶大変遅くなり申し訳ありません。TBいただき、ありがとうございました!

場所良し、人良し、食べ物良しで、非常に居心地の良いお店でした。函館に行くたび、また必ず寄ってしまいそうなお店です。
Posted by 2年後カフェ計画 at 2006年10月21日 12:39
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American Spirits M.K.Y 06/09/22
Excerpt: 通算302種類目のハンバーガーを食べるために、この日訪れたのは、『American Spirits M.K.Y(アメリカンスピリッツ)』。場所は引き続き函館の元町。 函館市電本線『十字街』駅を降りて、..
Weblog: palog(ハンバーガーブログ)
Tracked: 2006-10-08 18:24