山陽本線、広島駅の隣――横川(よこがわ)駅。この横川を起点にJR可部(かべ)線という支線が分かれている。
●横川
つい数年前までは三段峡が終点だったのが、今は可部より向こうは廃線になってしまった。ちなみに可部線の起点は横川であるが、列車はすべて広島駅始発となっている。広電も乗り入れる横川駅は、ちょっとレトロを漂わせた大きな緑色のアーケードが不必要なまでに立派で、全く予備知識無く行った私は「なんでこんなに……?」とつい云われなどキョロキョロと探してしまった。
その立派な駅から徒歩約1分、横川に30年続くハンバーガーショップがこのゴッドバーガーである。見た目は中華料理屋風とも言ってよい緑のスレート屋根の店舗で、入ると少し古風な喫茶店風(最近改装とのこと)。白壁に掛かるルノワールのジグソーパズルにクラシックのBGMは、それを意識したものと思ってよいだろうか。この日は土曜だったこともあり、午前中からお客さん多数。
ハンバーガーショップに歴史アリ。その歴史について触れることは即ち、社長である神川氏の履歴を辿るのに等しい。聴けば実に興味深いハンバーガー人生を歩んでこられた方である。その辺りについて少し書いてみようと思う。
●ガリバー
まずパン屋の息子だった――この時点で既に運命づけられていたように思う。
小学生の頃には、名字からとったガリバー(god + river)なるレストランをやろうと夢見ていたが、決まっていたのは名前だけで、具体的にどんな料理を出すかまではイメージに無かった――ミュージシャンを目指す少年が、デビューアルバムのタイトルだけ決めているのと同じノリ。で、パン屋の息子なので、長じて東京は麹町のキムラヤに修行に出たが、あまりの厳しさに夜逃げ(←社長ご本人の言葉です)。
大学に進学。4年のとき、「マクドナルド」が日本にちょうど上陸するかしないかの頃で(日本1号店オープン'71年7月)、このニュースに触れてひらめいた――そうだ! ハンバーガーだ! ついにガリバーで出すべきメニューが決まったわけである。
でマックへの就職を志望。この社長の凄いのは、まだ海外旅行などする人の殆ど居なかったであろう当時、グレイハウンドに揺られて西から東、また西へと夏休みにアメリカ横断旅行をしてのけたことである。
●モスバーガー広島店
マックには3年弱。辞めて次になったのがなんと! モスバーガー第30号店・広島店のオーナーだった。「モスバーガー」は'72年3月に東京の成増(なります)に実験店オープン。当時は自転車操業の真っ只中、マニュアルなんてモノは無く、創業者自ら材料の発注をかけるテンヤワンヤな時期だったという。
'74年7月19日、モスバーガー広島店オープン。ところが1年ちょっとでコレも辞めてしまう。そんなに簡単にFCから抜けられるのかとも思うが、少年時代よりレストラン経営を夢見ていたパン屋の息子は「今こそ」と独立開業を決意。'75年11月1日、ついにゴッドバーガーが誕生する。
場所はモス広島店の所在地に同じ。つまりゴッドバーガーは最初モスバーガーだったのである。温めていた「ガリバー」という店名は既に他の人によって商標登録されてしまっており、使えず。代わりに名字より1字だけとり「ゴッドバーガー」とした――またとないネーミングだと思う。
しかしマック、モスと2大バーガー店に勤めたからとて、すぐさま自分の店が始められるわけではない。パティにせよソースにせよ、現場に送られて来るのはすべて調理済みの材料であって、言わばこれらは元となるレシピのコピーである。コピーの原本は隠されている。まして経営学を学んでこの道に入った社長には、現場の実際の作り方などさっぱり解らない。そこで今度は兄の支援。兄の友人が営むレストランに料理の基礎を習いに行った。
●お好み焼き
以来今年で31年。バーガー類15品は30年間の試行錯誤の結晶である。ロイヤルゴッドバーガー レギュラー¥550。レタス・肉二枚のダブルは¥1,000、レタス・肉二倍・焼き玉子のジャンボなら¥1,100。お供にアイスカフェオレ¥250。「おいしいものが好きですか?」のコピーの入ったパックの上からもう1枚パックで包んで二重に。
バンズは表面ツヤなし、ケシもゴマもなしのドーム型。サウザンのような色付きマヨ、トマ、レタ、千切りキャベ、チー、玉子、ベーコン、パティ、シュレッドオニ、下バン。これら具材を混然一体と食べる感じは佐世保に近いようにも感じたが――玉子使ってるし――左にあらず、ゴッドバーガーのルーツは広島らしくお好み焼きなのである。
●原点回帰の一品
社長はお好みが大好きだった。日本マクドナルドの創業者・藤田田氏の「食は文化である」という言葉を聞いて「その土地のものを出さにゃいかんな」と思い、地元広島のテイストをハンバーガーに加えるアレンジを考えたのである。
「いろんなもの見て、そこがやっていないものをやりたい」――アメリカを横断しても、マックとモスで働いても、ゴッドバーガーはそれらの模倣の積み上げではない。10年前に出来たロイヤルゴッドバーガーは、大好きなお好み焼きのテイストが際立つ、云わば原点回帰の一品である。「サウザンのような色付きマヨ」は、実はマヨネーズにお好みソースを加えた広島風。キャベツの千切りや玉子が入っているのも、なるほど「そういうこと」である。
パティはハンバーグ。表面にテリヤキソース(スイート)が塗られ、噛むとサックリ割ける食感。レタスはグリーンリーフ。濃い目のチーズもたっぷり加わり、全ての食材が混ざり合うことによって勢いの生まれる逞しいバーガーである。これら具材を堂々と支える立派なバンズの存在も大きい。
そのバンズ、当初は3軒隣の実家から焼き立てを調達していたが、パン屋の父は引退し、今は他のパン店に依頼している。ただ今でも父の作るバンズには思慕の念と言ってよいほどの相当な想いがあるようで、社長の中では「まぼろしの逸品」となっているそうである。父然り兄然り(この日、娘さんも店にいた)、家族に支えられながら30年続けてきた、そんな社長の家族を大切に思う温かさは、どこか店の空気からも伝わってくるように感じられた。
●更なる最高傑作を
さてその社長、最近こんな心配をしている――僕はお好みは大好きだけど、しかしこどもの頃食べたお好みと今食べるものとでは味が全然違う。当時と比べ確かに調理の技術は向上したかも知れないが、肝心なのは素材そのものの味である。野菜ひとつひとつの旨味が今と昔ではまるで違う。本当に美味しいものは、もう何処にもないような気がする――。
環境破壊や大量生産・大量消費という社会構造の大きな変化が、事実食材から美味しさを奪ったのかも知れない。私が生まれるより以前、今よりずっと美味しい野菜が青果店の軒先に事実並んでいたのかも知れない。仮に事実はそうだとしても、しかし「最高のものはもう作れない」と諦めてかかるにはまだまだ早いように思いますよ、社長。そんなコト言わず、マック以来バーガー歴34年、藤田田・櫻田慧という日本バーガー界のビックネーム2人に直接会った経歴を持つ業界の大ベテランには、ロイヤルゴッドを上回る更なる最高傑作を是非是非作り出していただきますよう、切に切にお願いする次第であります。「最高のものはもう作れない」かどうか、それは...GOD ONLY KNOWS.
→ # ゴッドバーガー [広島・横川] 神川社長、上京す
# 「ゴッドバーガー」は何処へゆく by "タカシのB級グルメ日記"
【各地に残る、創業20年超のハンバーガーショップ】
―― shop data ――
所在地: 広島県広島市西区横川町3-10-16
JR・広電横川駅歩2分 地図
TEL: 082-232-2608
オープン: 1975年11月1日
* 営業時間 *
平日: 9:00〜22:00
土日祝: 9:00〜20:00(売切れ次第close有り)
定休日: 火曜日(要確認)
とても歴史あるお店だったんですね。
また広島に行きたくなりました。
※私の方のブログももう少し詳しく更新しました。
こちらのリンクも貼らせていただきましたので、よろしくお願いします!
こちらこそコメントありがとうございます。
個人経営のハンバーガー屋さんで30年選手というのは本当になかなか無いように思います。私が訪ねた限りでは加古川の「ピープル 加古川店」、それから大阪・針中野の「ボンハンバーガー」辺り?なによりその「継続する力」に拍手を送りたいですね。私にはとてもムリですから。
どちらのお店にも流行り廃りに呑み込まれない、逞しさのようなものを感じました。
またよろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
それも一計です。
あとはお店が「どういうイメージでありたい」と望んでいるかとか、お店の方向性とか、最終的にはそういった総合的な問題になってゆくと思いますので、どんなもんでしょうか――まぁ、見せ方次第でしょうネ。
ありがとうございました。
またよろしくお願いいたします。