2006年08月09日

# 140 ボンハンバーガー [大阪・針中野]



 7月31日――朝起きて愕然とした。まるで高地に来たような涼しさ、9月のように気の抜けた風の淋しさ――こんなの夏じゃない! 立っているだけでジリジリするような、あの灼熱の夏を求めて、西へ西へと旅に出ることにした。

 8月4日――大阪に降り立つ。と、熱く重たい空気が全身を包み込んで、蒸し上げるようなこの不快感……これぞ我が求めていた夏! 水を得た"魚"のように大阪の夏を回遊した。

●針中野


 地上3階、異様に高い高架上を走る近鉄南大阪線の針中野駅店は今里筋に面した、わりと車通りの多い場所にあるのだが、一本入れば路地裏・下町風情。玄関先に大きなビニールプールを出して、頭から潜って遊ぶ男の子3人。そしてそれを2軒隣の玄関先から椅子に座って見つめる1人――監視員かキミは。


 「来週の金曜、営業してますか?」「してる……とおもう」――この店の主と初めて(電話で)した会話はこんな感じだった。店を訪ねた当日の2時間に亘る会話もずっとこんな感じ。もっと憎めない感じの好好爺が、渾身の力を振り絞ってどうにか生業を続けている……そんなイメージをしていたのが大間違い。事業拡大を常に志す、意欲的で開豁(かいかつ)なただの大阪のおっちゃんやった。

 大阪のおっちゃんはなかなか凹まんでぇ。「ココは商売には(場所が)向かない」と言う。何処ゝならもっとイケんのになぁ――。なら場所変えたらいいんじゃないですか? と訊けば「いや、2階が自宅やねん……」大阪のおっちゃんの愚痴には必ず言い訳が用意されている。



●チェーン本部

 オープンから28年。ひと頃は4店舗まで規模を拡大させていたが、どこも直営だったため――つまり、結局自分1人で全店の面倒を見ないといけないので――面倒臭くなり、今の規模に落ち着いた。以来何となく安穏と過ごしている……のではなくて、今なおチェーン展開あるいはFC展開を企図して止まない野心家である。それが証拠にオモテの看板には「チェーン本部」「看板取次店」と(だいぶ以前から)書かれている。ところでこの片足上げたキャラクター、ハンバーガーと言うよりチャイニーズな衣装の女の子が、両手に出前のどんぶり持ってるように見えてしょうがないのだけど(てか、看板自体そもそも中華料理屋風)、その辺のクレームもチェーン本部に回したらいいですか?


 "チェーン展開"という言葉が出たが、ココのご主人の考える店舗経営のスタイルは、大手チェーンのようなスタッフを何人も使ってというものでなく、店主1人で店を全て切り盛りして、きっちり売上げを出してゆける――そんな規模を基本としている。1人でいかに無理なく負担なく、破綻なく店を回せるか――。

 週1で休みをとるくらいなら定休日など作らず、3日続けて休みなさい。1日なんて休んだ気にならんやろ。休みなしがツライなら閉店の時間を早めなさい。気楽がイチバン、家族でやれたらイチバン……現に28年続けている人の、実のある言葉である。


●いっぺん食べてみ

 店内外ともファストフード風と言えばそんな造り。大半の椅子机は新しいものに替えられているようだが、1席だけファミレスにあるような背中合わせのシートがあって往時を偲ばせる。BGM――そんなモンなし。

 でお待ちかねのハンバーガー。今年の6月からメニューが一新。バーガー類13品、ホットサンド3品。ハンバーガー¥220、チーズバーガー¥250、人気マークのボンバーガーは¥280。殆どのメニューが300円前後。とにかくどれも「いっぺん食べてみ」というので「一度に2つの味を楽しめるバーガー+バーガー+ドリンク(M)のセット!」という文字通りバーガー2個セットから、エビバーガー+ボンバーガー+ドリンク(M)の組み合わせ¥700を。ドリンクは「オレンジにしとき」言うのでオレンジ(M)¥170頼んだら、キンキンに冷えたスムージーだった……気持っちイイー!

 看板商品ボンバーガー系統としてはソース一発の味で決めるタイプのバーガーである。一見よくある感じのライトオレンジなハンバーグソースは、中華のようにドロッとしたとろみが効き、スパイスがエラク加わって、単体で味わうとピリリと辛い。表面ツヤなし、ケシ・ゴマなし、裏面を強目に焼いたバンズ。ソースの下には細か〜く刻んだ……と言うよりフードプロセッサーで細かく砕いた(おろした)ような状態のオニオンとキャベツが来、マヨネーズが来、厚くはないがぷりんとした肉質のパティが来、乗せる前に水気をシャッとひと切りしたレタスが来て、下バン。


 あっつあつの特製ソースにバンズ+オニ&キャベ+パティが出会うと、辛さが程よく中和され、シャクシャクした心地好い歯応えが生まれて、独特な力強い味わいが形成される。案外な食べ応え。見た目のサイズのわりに満足度は高い。1個食べ終えて、さらに興味の湧いた向きは2個、3個……と違う種類を試してみるも良し。私の好みでは塩気の増すボンチーズバーガーよりも、レタスの水分で味が適度に丸くなるボンバーガーの方が、完成度はより高いように思う。

 バーガーにせよオレンジジュースにせよ、手間隙をかけ過ぎない適度な工夫で、それでもきっちりとオリジナリティを表現するという、極めて大阪的な合理主義に則っていて、作りが単純であろうが安かろうが、とにかく解りやすい美味しさがある。

●イワシを釣って鯛を待つ

 さて一見気楽にやってるようで、しかし事業拡大については意志も意欲も予定もちゃんとあって、現に私が訪ねた日の翌日、奇しくも平野のとある喫茶店でボンバーガーの取り扱いが始まるという――おぉ! 実におめでたいタイミングだ。で、ご主人、その喫茶店の名前は? 「知らん……」。

 経営戦略にも哲学がある。こちらから積極的に攻めかけるのでなく、ボンバーガーの戦法は「待つ」。もちろんただ待つのでなく、待ち方があって「イワシを釣って鯛を待つ」の作戦という――わかる? 最初はイワシばかりかも知れないけど、いずれ大きな鯛がやって来る。イワシ拒めば鯛は来ず。イワシ拒まず、まして鯛も拒まず。店出すならマクドの近く。ま、気楽に行こ! 東京でも流行るデ、アッハッハッ……と、店主の高笑いがこだまする。


【各地に残る、創業20年超のハンバーガーショップ】

― shop data ―
所在地: 大阪府大阪市東住吉区湯里2丁目19-11
     近鉄針中野駅歩10分 地図
TEL: 06-6703-4835
オープン: 1978年
営業時間: 10:00〜22:00ぐらいまで
定休日: なし(要確認)

2006.8.9 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 00:20| Comment(2) | TrackBack(0) | 西国編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ボンバーガーのファンサイトを見て来ました!

家が近いので、ちょくちょく行ってます。

読んでると「おっちゃんらし〜!!」とひとりで笑ってしまいましたププ―(*゚艸゚)―ププ

写真はボロボロの看板ですが、今は綺麗になっています。

中は相変わらずですが・・・大阪に来たら、またぜひ食べてみてくださいね!!
Posted by ☆ボン☆ at 2007年03月20日 19:12
☆ボン☆ さま

コメントありがとうございます。

でもおっちゃん、
あぁ見えて、けっこう真っ当と言うか、理に適ったことを言っておられるんですよ。伊達に28年続けてないな、という感じです。その辺に魅力を覚えますネ。

大阪のみならず、日本全国に目を向けてもなかなか無いお店だと思います。おっちゃんが困らない程度にもっと流行って、もっとみなさんに知られて欲しいですネ。


またよろしくお願いいたします。
Posted by 2年後カフェ計画 at 2007年03月21日 13:23

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