少し前の話ですが。
よく降りますねぇ……というわけで、身も心も湿気ってしまいそうなこの長雨の季節、あぁーなんか南洋のリゾートな空気に癒されたいな……とコノ店へ。藻のむしたような臭気が、微かではあるが、しかし行くところ行くところ終始漂っている。釣り堀の端歩いてるんじゃないかというくらいの青臭さ。むせ返る。息が詰まる。一刻も早く脱さねば……と青山通りを折れて北青山一丁目アパートの向かいへ。「アパート」と言っても語義の通りに非ず、今や立派なマンションが、けぶる梅雨どきの高湿度な空気の中に霞んで建っている。
一本入ったこの微かな生活観……これもまた青山。ちょっとした隠れ家のような雰囲気が漂うとはその通りで、大きなハワイ州旗が雨に萎れているのも含め、佇まいは至って控え目。売り場半分・カフェ半分の縦長な1Fを抜けて2Fに上がると、おぉ……ハワイのホテルの落ち着いた大人のラウンジをイメージしたコノ空間。木のフロアに抑えたデザインのシンプルな家具がゆったりと並べられ、壁半分と天井は青……それも渋い青で、少しグリーンの混じったような……こんな色だったかな? この色が実にしっとりとした落ち着きを与えている。
その渋い青の壁をバックに、花瓶に活けられた色鮮やかな花々が、南洋の色彩を周囲の暗がりに放っている。クドさやヤリ過ぎの無い、さりげなくイイ感じ。昼も素敵だが、夜の帳が降りてからのコノ雰囲気には心より癒される。BGMは静か〜にハワイアン。音量が小さめであるところがポイント。大音量のハワイアンはやはり変だ。ハワイの音楽は基本的には静の音楽なのだろう。波の間に間に聴こえてくる感じこそふさわしい。眠気を誘うこの心地好い静寂……おぉ、耳を澄ませばセシリオ&カポノが!
コナコーヒーの店。ハワイ島はファラライ山の西側斜面とマウナ・ロア山の西側斜面、コナ地方でのみ収穫されるコナコーヒーは、地形的条件から生産量が極めて少ない希少な豆として知られるが、最近ではこのムウムウコーヒーのように直輸入(こちらの場合、空輸)して専門的に取り扱う店も現れて、広く親しまれるようになってきた。
株式会社ムウムウコーヒージャパンは本社大阪。東京支社はコノ青山店の階上。'95年よりコーヒー豆の輸入販売(および普及啓発)を始めて'02年8月に会社設立。現在東京・名古屋・大阪に7店のショップとカフェを持ち、従業員は6名……だと3都市7店はとても回せないので、各都市それぞれに地元の企業がショップとカフェの経営に当っている。同じ「ムウムウコーヒー」の看板を掲げてはいるが、それぞれ元は別……よくある話である。但しムウムウコーヒージャパンと各社とは浅からぬ関係にあるようで、その辺りサイトを見るとそれとなく窺う事ができる(が、正確なところは分からない)。名古屋はあのゼットン。東京は青山の他に御茶ノ水店があるが、こちらは180度方向の違うネオンな雰囲気のお店でこれまた……!
チーズバーガー¥980、"らしく"四角い木の皿に乗って。付け合せはフレンチフライとクリスフライに、ナチュラルな味のトマトソースが添えられて皿上にぎやか! バンズはおにぎり型と言うか、三角形の角がすべて丸ったような形の扁平バンズ。表面白ゴマ、わかりやすい甘味。チーズの表面にマスタードとケチャップがストライプを描き、やや小ぶりなパティ、抑えた甘さのピクルス、トマト、オニオン、レタス、下バンの上にバター。
パティは表面をまんべんなくコゲ目が覆い、やや塩味の効いたハンバーグ的なものだが、焼き方と捏ね具合抜群! 持つと二つに裂けてしまいそうなくらいの柔らかさなのだけど、それが食感にも活きていて、ゆるく空気を含んだような、ふわふわと言うかふるふるとした感じはなかなか。グリルした分厚いオニオンもまた火の通し加減が抜群! 甘さ全開でとても美味しい。気合い入れまくり……という感じのバーガーでもないのだが、要所を押さえ、美味しくまとまっている。
惜しむらくはチーズ。デリケートな味の多い中、ムッチリと濃厚な味になっていて、これでは直接的過ぎる。火を通して薄〜く伸ばしたいところ。さて今回、コーヒーの店なのでお相手は当然のようにコーヒー。100%コナ エクストラファンシー¥750と合わせてみた。バーガーの合間にすすると、パティやオニオンのコゲの香ばしさとコナコーヒーのくすんだ苦味の相性が実に良い。コレはパンが美味しくなる香り。舌の上が微かな酸味でコーティングされる、さっぱり透明(クリア)な飲み口。はっきりした香りやキツイ酸味が無いので飲みやすく、ついほっと心休まる一杯。このコーヒーでモッサモサのドーナツなど食べたくないものですな。
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コノ青山店は店名が如くガレット(フランスのそば粉クレープ)がメニューのアクセントになっているくらいなので、総じて粉系との相性は良いようだ(駄洒落禁止!)。コナビールを供にオトナな酒宴を催すもまた一興。他にお店も無い完全なる裏の立地なのに、それでもよく人が入っている。コノ人たちは一体どうやってココを見つけて来たのだろう? ひょっとすると、隠れ家や美味しいものを見つけることにかけては抜群の嗅覚を持つ人ばかりが集結していたのかも知れない。この藻のむしたような外気の中にあっても……って、ソコに戻るか。
てなことで、そんな日本の梅雨の鬱陶しさをしばし忘れさせてくれるお店。
→ # Muu Muu Diner Fine Hawaiian Cuisine [横浜・センター北] のロコモコ
2006.7.26 Y.M