昼は1個\300前後のハンバーガーを紙コップに注いだドリンクとともに提供している――とそれだけ聞けば、ファストフード系かカフェテリア風の店を想像するのが普通だと思うが、ところが聞くと見るとでは大違い。
パッと見は近隣サラリーマン御用達の古びたコーヒーショップ。前面ガラス張りだし自動ドアだし、ドトール辺のチェーン店系に年季が加わった感じ。ところが一歩中に入ると……ん?見た目よりさらに年を重ねた老喫茶室とも、あるいはシックな造りのステーキ屋風老洋食店ともとれなくもない。どちらにも見える。どちらともつかない。
球が切れてんだかワザと消してんだか、明かりの点いていない照明が所々。外からだと暗過ぎて、やってんだかやってないんだかよく判らない。言い換えれば妙な雰囲気がある。この老舗ステーキ屋風、ないしは日本橋・神田辺の老喫茶風の店内で、1個\300前後のバーガーを紙コップに注がれたドリンクとともにいただくというのは、それはそれは目くるめく違和感なのである。不思議だ……
どうにも変だ。40wのハイビームが明るい光の輪を落とす席に着き、鎖で吊り下がったステンドグラス風ペンダントが、ほの暗い光を周囲に投げる対岸の席を見やりながら、この店のミステリーについてあれこれと考えた。
絶対に変だ――1.以前全く別なスタイルの店を経営していたのが、今の店に商売替えするに当たって内装のみ前のままを引き継いで今日に至っているとか、2.本来は純粋なる珈琲屋ないしはレストランだったのだけれど、それだけでは立ち行かなくなったため後からハンバーガーを始めたとか、ないしは3.潰れた前の店舗をそのまま借りて今の店を始めたとか……。
さらに不思議なのは壁に向いたカウンター席に並べられた焼酎の瓶だ。ハンバーガーにビールという楽しみ方は定番だが、焼酎がこれだけ並ぶというのは……率直にアンマッチ。ココを喫茶と解釈したなら……なんなんだ!コノ喫茶店は!?
謎は深まる一方……。そんな謎だらけの闇の中からタートルバーガー\399。裏面よく焼けたバンズは表面白ゴマ、ファストフード系のお馴染みのタイプ。少量のマヨネーズ、少量のレタス、トマト、刻んだオニオン、そしてなんとシュリンプ×3尾!パティ、ミートソース、下バンズ。
このバーガーの力点はホットペッパーの効いたミートソース。挽肉たっぷり、シュリンプとよく絡んで中華ともベトナムともブリトーともつかぬ、独特な世界を形成している。モスやフレッシュネスとは似て非なる濃密なソース。
とは言いながらもソースひとつの味で楽しませる類のバーガーである点に変わりはない。なのでパティの肉質もバンズの味もどんなものだったか、さっぱりよく分からないのである。特に印象無しということで軽く流す。
マヨネーズの意味も余り無く、やや張りに欠けるトマトは他の具材とフェイズが合っていない。しかしなにぶんソースが美味しいので、あまり細部に目を向けず、単純に美味しくいただけたらそれが一番かと。シュリンプ3尾は贅沢。
§ §
さてハンバーガーは平らげたが、ミステリーは山積みだ。しかし聞けば案外と単純な答えで、特段の謎など無かったのであるが。その"案外と単純な答え"は以下……。
昼間はハンバーガー、夜はビアダイナーというスタイルをもう10年近く続けている。と言うことは10年前からハンバーガーを出している店だったワケである。
どうも当初から二足の草鞋だったらしく、上で推理したような事実は無い様子。内装は夜のビアダイナーの方に合わせてあるらしい……言われてみれば、オモテのガラス窓下部にはワインのコルクが無数に貼り付けられている……ってビアじゃないじゃん!
ダイナーメニューはFAX用と思われる感熱紙一面にびっしりと手書き(のコピー)で「1.活魚御刺身盛合せ」から「100.プリンアラモード」までジャスト100種類!この"100種類"は狙いですな?いなだのお造りから、ラムのジンギスカン炒めから、タコのフリカッセから、冷し讃岐うどんから無国籍に横並び、値段が無表示なものはオール\500でいただけるという、料理の幅といい傾向といい、つまりは洋風居酒屋ですな?それがココの正体だったワケなのである。
そこそこ分厚い豚肉にチャンキーサルサソースをたっぷりかけていただくポークサルサステーキ\790なんて、盛り付けも立派だし美味しいし、そこらの居酒屋などてんで問題にならぬくらい、まず料理としてちゃんとしている。そーかそーか、ココはビアダイナーだったのか……と、老舗ステーキ屋風、ないしは日本橋・神田辺の老喫茶風の店内で、ヱビスの黒生を供に香草がきっちり添えられた魚介のフリットやポークソテーをいただくというのは……やっぱり目くるめく違和感なのである!!素直に変っ!ナンデ?
§ §
器と中身の不釣合い――普通の想像力では、コノ店の外見から、ホンモノな料理が出て来るようにはどうしても想像できないワケですワ。重目の喫茶にしてはハンバーガーは軽いし、喫茶から想像される軽食からすれば夜の居酒屋メニューは重過ぎる。いやーコレはもうちょっと年季入れば、同じ渋谷の百軒店(ひゃっけんだな)に今なお続くカレー専門店ムルギーに匹敵する"迷店"になるやも知れませぬ。
う〜ん、どうにも抗い切れないこの不思議感覚……ギャップをつまみに小首を傾げながらいただくビールとハンバーガーのお店――実はちょっとハマりかけてます……。不思議と言えば、タートルズという余りに微妙な店名こそ、なにより最大の不思議だったり。BGM――基本的には気分のいいジャズがソロソロと……
はじめまして。このお店の「違和感」を同じように感じる方がいて、何となく嬉しく感じてしまいました。
コメントありがとうございます。ほんと不思議なお店です。しかも料理が美味しい。それもまた不思議…
先日夜、神田を歩いていたら同じようなお店を見つけました。どう見ても喫茶店、でも店内ジョッキ片手に肴をつまむ仕事帰りのサラリーマンやOLで賑わっている…そんなお店で一杯やるというのも、一種の「慣れ」なのかも知れませんネ
勝手ながら私のブログにリンクさせて頂きました。
ご迷惑でしたらお知らせ下さい。
私の文章力では伝わらない部分が多くて…
宜しくお願いします。
おやじ拝
ワォ!拝復で返されたヨ…
返事は何て始めればよいんだろう…
あ〜分かんない!
社会人としての常識が…
という次第で>おやじ様、ふたたびありがとうございます!