2006年05月08日

# 129 BRIDGES [立川]



 この人たちは何処から来て何処へ行くのだろう――と言うくらい、立川の駅には人が集まり、流れていた。電車乗りたくない……と思わせるほどの奔流である。町田など言うに及ばず、八王子をも軽く凌駕している。コンコースの密度だけ見たなら新宿駅南口に匹敵すると言ってさえ過言ではない。行きも帰りも迫力に圧倒され通しだった。

 ところが調べると、市の人口は僅か17万4千人しかいないのである。八王子市は54万5千、町田市は40万1千、前回の草加市でも23万8千人はいる。

 ではこれだけの人が一体何処から、そして何処へ……? などと首を傾げるまでもなく、駅北口のルミネ・南口のグランデュオ(ともにJR東日本系)を皮切りに、伊勢丹、高島屋、パークアベニュー、シネマシティ、マルイ、ビックカメラに地元のフロム中武と、これだけ居並んでしかもどこも概ねキレイに整えられているようだし、さらに伊勢丹〜高島屋へと渡るデッキの上の中空を多摩都市モノレールが豪快な蛇行を見せながら往来し、そこだけ切取ってもワクワクするような近未来的都市景観が楽しめるのに加え、駅歩10分の圏内に広大な国営昭和記念公園が控えている――。疑う余地なく立川は相当な集客力を持った街である。



 その賑わいをひとしきり抜け切った先、つまり怒涛の集客力のその先に店は在る。

 例によっての外れた立地であり、そして何遍書いたか知れない通り一本入った場所なのだが、しかし素敵と言えばなかなか素敵なところで、この一画には大きな庭を擁した邸宅などもあり、駅周辺にはない落ち着いた佇まいが感じられる。店の少し先には、市の保存樹木に指定されるケヤキの巨木が道の上を傘のように高く覆って立っている。きっと夏の夕刻にはしっとりと涼やかな緑が道に陰を落として良い風情になるに違いない。

 そんな住宅街への入り口に店は位置している。築二十年ほどのやや古い3階建マンションの1Fテナント一角。寿司屋か中華か、建物だけ見ればそんな店こそ合いそうな構え。しかし落ち着きあるカフェという感じのコノ店の外観は、深緑のテント屋根と窓枠のの配色が、ケヤキの茂るこの通りの色によくマッチしていると思う。

 ニューヨークシティにあるカフェをイメージした店内には、夢見るようなジャズヴォーカルが涼風のように流れる。床はベージュ色のタイル、ツヤのない渋い風合いの木材で室内を囲み、こげ茶の机椅子でトーンをキュッと締めている。アチラの街の様子を収めた写真が壁一面、小さな額に入って飾られている。卓上の塩と胡椒はなんともミニチュアな容器に収まっていて、どこで見つけてきたんだろうという可愛さだが、対してトイレの巨大な扉は惚れ惚れするくらいに立派なもので、むしろこうした意外なところにこそ"アメリカン"を感じる。

 のべ20年アメリカに滞在して、日本のレストラン業界が組織する某団体の事務局のような仕事をしていたというマスター。米国の外食業界について明るいばかりでなく、そんな立ち位置から日米各々の事情を見つめてきた人物だけあって、このブリッジズに対し寄せる想いも熱く大きくありながら、しかしある種気負いのない、余裕のあるスタンスで臨んでおられるようで、それがコノお店の立地にも、また空気にもよく表れているように見受けられる。'05年10月オープン。

 ゴールデンステート チーズバーガー¥720、ランチタイムはドリンク付セット¥860。ゴールデンステートとはカリフォルニア州のこと。メニューの頭には各州のニックネームが付いている。

 明るいキツネ色の表面に打ち粉を振ったバンズは食パンの生地を使用。ゆえに特別強い味を有さず、甘目なものが主流な中にあって、味も見た目も珍しいバンズだ。ざらっとした食感はバーガーのソレと言うよりサブサンドの感じに近いか。

 裏バター、マヨネーズ、分厚く切ったトマト、燃え上がる炎のようなレタス、平たいパティ、ソテードオニオン、特製ソースにマスタード、下バン。

 マヨネーズとトマトの合い方は割りと想像のできるソレ。ソースとマスタードも分かりやすく交ざり合い、明快な味を構成している。挽き方程好いパティはジャリジャリし過ぎず、まろやか過ぎず、過剰に肉過ぎず、されど付かず離れずの巧みなつなぎ具合。割りと単純に挟み込んだレタスとともに、ハンバーガーが飽くまでファストフード=手軽な日常食であることをあらためて実感させてくれる。

 このバーガー最大のポイントはソテードオニオン。しっかりした歯応えが残っていて、上記具材の合間を縫って常に安定した心地好いアクセントを効かせてくる。全体に大仰でなく過剰でなく、しかし矮小でもなく、至極当然の要件をさらりとこなしている感で、ソツのない味。自然体。

 ディナーのバーガーと言うより朝食か昼食にいただきたい、ライトで健康的なバーガー。シンプルな白いプレートに載ってくるのもそんな意図からか。そう思うとアチラの朝食風にフレッシュなオレンジジュースやミルクとともにいただくのがヘルシーで良いかな。このバンズならサンドイッチも美味しそうだ。せっかく居心地良い空間なので、カフェ色を強めても良いかも知れない。ニューヨーク仕込みのブラウニーやチーズケーキにチェリーパイなど、そんなスイーツたちもコノ店にはきっと合うことだろう。

§ §

 「UNCHAIN FARM」でも触れたように「うまいバーガーを食べたいから……ならば自分で始めちゃおう!」というのが、そのとおりに実現する世の中になったという、ここ3、4年のバーガー情勢の変化を何より興味深く感じる昨今。

 此処立川でも、これまで日米両外食業界の架け橋で在り続けたオーナーが、自ら厨房に立って、己が掲げる理想のバーガー像を目指し、日夜腕を奮っている――。百人から百通りのバーガーが生まれ出る、いま密かにそんな時代がやって来つつあるのだ。本来ならここでフレーッ! フレーッ! と熱いエールを送って幕……というところなのであるが、しかし終幕直前、不意なことから新たな用事がふたたびこの立川に降って湧いたのである。行かねばなるまい……

2006.5.8 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 20:58| Comment(2) | TrackBack(0) | 帝都編◆都西 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ご無沙汰しています。

久々に、バーガーストリートのブログを見させていただきました。
ご活躍のご様子、大変うれしく思います。

既に、時間が経ちましたが、BRIDGESは2008年3月末で約3年間の実験を終え閉店をいたしましたので、ご報告いたします。
なお、吉祥寺の50/50さんも閉店をされています。

一度、メールをいただけますか。
Posted by BRIDGESのOWNERです。 at 2009年07月12日 12:48
BRIDGESのOWNERです。 様

大変ご無沙汰しております。コメントありがとうございました。

閉店からまだ1年と少しですか。あともう少ししたら雑誌が出て体が空きますので、もし可能ならもうしばらくお待ちいただけますか。

よろしくお願いいたします。
Posted by ハンバーガーストリート at 2009年07月15日 14:04
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