2006年03月04日

# 115 Hungry Tiger [横浜・保土ヶ谷]



 父が運転するクルマの後部座席から、いつも見ていた――高台に迫り出す大きなガラス窓を。そしていつも想像するのだった――煌々と輝くその窓の中で過ごす、家族団欒のひとときを――。横浜新道下り車線を走っていると新保土ヶ谷IC手前の左手高台にそびえて見えるその姿に、幼い私は一種中産階級的豊かさの象徴のようなものを思い描いていた。

 70年代は外食チェーンの創業ラッシュ――という話は何度かしたが、確かに当時、家族揃って外で食事をするということには、いまとは少し違う意味合いがあったように思う。2006年の今日、家族が近所のファミレスにふらっと出掛けて夕食をとるのとは、気構えも気の持ち様も違っていたのではないかと――飽くまで朧ながら、何やらそんな記憶と印象が残っているのである。69年創業以来の建築というこの保土ヶ谷店の建物には、時を経て今日なお当時の記憶――或いはステイタス――が漂う。

 やはり当時の建物は"本物"である。S造(鉄骨造り)。有に3階建の高さはある高ーい天井は太ーい鉄骨の梁がむき出し。内装には木材を多用し、大きなロッジ若しくは体育館のような、とにかく巨大な空間である。目を惹くのはバイパスに向いた一面のガラス窓、中央にワイヤーで固定された背の高いトーテムポール、そして店のシンボルチャコールブロイラー。石組みの上に渡された鉄棒の上で焼かれる、それはそれは大きなフットボール型ハンバーグパティは、800℃に達する炭火の高温に余分な油を落としながら、シューシューと絶えず白い蒸気を上げている。立ち上るその煙はブロイラーの真上に設置された"超"巨大&強力ダクトに、白い筋となって吸い込まれてゆく。このコックピットのように突出したブロイラーの背後に控えるキッチンは、城郭建築顔負けにごつい石垣(?!)に囲まれている。この辺の本気の造り込み様こそ年代の為せる業だろう。

 高温で炭火焼されたハンバーグパティは、テーブルに運ばれた後、客の目の前で横に2つにカットされ、火の通りの弱い内側を320℃の鉄板に押し付け更に焼いて、料理の仕上げをする――この半焼け(正確な表現は失念)の焼き方が本来の"売り"だった。ところが折しもO-157が社会問題となっていた頃、コノ店でも出してしまい、それを機に以前よりよく焼き込むよう創業以来の"売り"を改めたが、結果として店舗数を大きく減らしてしまう。現在市内に4店舗のみとなったが、しかし人気はいまだに高く、客待ちの常に絶えない店である。保土ヶ谷店はなんと地下に週末夜限定の待合室があって、オセロ、トランプ、ぬりえなどして長い待ち時間を過すことが出来、更には軽食もとれるようになっている。ハングリーバーガーはこの待合室の看板メニューでもある(昨年から始めたそうで)。

 料理はどれも十二分な質と量。対して値段は安い。日替わりのスモールスープ¥300は他店ならレギュラーサイズ。この日は実に細やかで深みのあるクラムチャウダーだった。保土ヶ谷店"限定"ハングリーバーガー、ソフトドリンク付¥1,155。くすんだ茶色の胚芽バンズは通好み、実に渋い選択だ――と言うか、セットのパンとほぼ同種のものである。裏バター、長いピクルス×2、冷えたトマ、サウザンソース、大き目に裂いたシュレッドレタス、キャラメル色になるまでソテーしたオニオン、パティ、下バン。付け合せはフレンチフライ。さらにマスタード。このマスタード、口当たり実にクリーミー、食べ終わるころ苦辛い味をじんわり効かせる逸品。サウザンソースも同様にはいり口なめらか、食べるうちキュッと酸味が効いてくる。

 先述のような焼き方により、ココのハンバーグはパラパラ・ザラザラとした粗い肉質を特徴としているが、これこそワイルドでダイナミックなアメリカンバーガーには向き。バーガー用にはちゃんとパティを平らにするようで、ゴロンと食べづらいことはない。香ばしい炭火の匂いの漂う中、粗めの肉感と、噛み締めるほどに滲み出す肉の風味とのバランスが抜群。さすが肉の専門店と呼ぶにふさわしい、"肉"を知り尽くした絶妙の味のコントロールである。

 難を二つ挙げれば、レタスが畳まず千切ってあるため歯応えに欠けること、干瓢状のオニオンの味は人により賛否意見が分かれるかも知れないこと。グレイビー、デミグラス、醤油ベースの和風、トマトベースのイタリアン、そしてもちろん直球でトマトケチャップなど、合わせるソースの数ある中で(ケチャップは付いてきたが)、あえて甘目のオニオンを選んだ辺り(ココもそう)、このバーガーには一種の独創性が感じられる――と言うか、ハンバーグステーキの付け合せのオニオンがそのまま使われているという、それだけのことか。あまり汁気の多いソースだとバーガーには向かないのでいずれ工夫は必要だが、これだけ美味しいハンバーグ屋のパティだから、どうせなら肉らしい豪快な味付けでいただきたいなという欲求も、特に隣の席でジュージュー音を立てるステーキなど意識してしまうと、つい思ってしまう。ともかくオニオンの甘味のよく効いたバーガーだった(実はソースが少量だっただけかも知れないが)。

 いや、実はもっと単純で明快な動機によって作られているバーガーと言ってよい。つまりテーブルの上に並べて置かれたセットのパンハンバーグステーキ付け合せのオニオンサラダのトマト&レタス――を集めてタテに積み重ねれば、このバーガーは出来てしまうのである。何か特別な作り込みや準備によってでなく、そんな単純な応用の利かせ方でこのバーガーが成り立っていることを、そうこなくっちゃ!! と私は何故だか嬉しく思う。量は見た目以上、最後のひと口まで肉厚なパティの存在感を堪能できる。私が今まで肉の専門店に寄せていた期待に初めて応えてくれたバーガー。

§ §

 さてこの記事を書いている最中に相鉄ジョイナス店の閉店が発表された。これで駅から歩いて行ける店は無くなったワケである。今まで当"隧"道で紹介してきた店の中では珍しくファミリーの似合う店であり、何より外食ブームの牽引役として時代をリードしてきた老舗である。これからも是非40年、50年と歴史を積み重ねていって欲しいハマの名店なればこそ――負けるな、肉屋の息子のレストラン!


※その後、日野店・港北センター南店でも販売を開始(2006.9.9)


# Hungry Tiger [横浜] のハングリーチーズバーガー
# Hungry Tiger [横浜] のハングリーバーガー


2006.3.4 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 18:40| Comment(4) | TrackBack(1) | 横浜編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おぉ、いつの間にハングリーでハンバーガーが…
知りませんでした。

ハングリーのハンバーガーは、ミディアム・レアで
焼き上げられ、お客様の鉄板にて最後の調理(演出)を
行います。鉄板の温度は360度位だったかな。

この調理(演出)により、ミディアム・ウェルダンに焼き上がる、
という寸法でございます。(確か…)

とはいえ、O-157、狂牛病のあおりを受けて、
一時期はしっか〜りと焼き上げ、その演出・味ともに
落ちてしまったのは残念です。最近はだいぶマシに
なったと思います。
一時期は3店舗にまで縮小しましたが、最近は日野、港北と店舗の
拡大をしているようですね。(少しずつ)

元スタッフなので想像が付きますが、バーガーは仰るとおりに
作られていると思います。使い回し感が…と思いますが。

そうそう、バーガーに使われているマスタードですが、
通常のハンバーグでもお願いすると出てきますよ。
結構イケます。以前はカスターセットにあったのですが、
衛生的な理由でしょうか。

と言うことで、是非今度食べに行こうと思います。
Posted by らいらい at 2006年07月15日 02:28
おぉ、らいらい様、
コメントありがとうございます!

保土ヶ谷店限定と聞いてますので、間違えて若葉台に行かぬよう。

このハングリータイガーの調理の方法は、佐久平の海賊島ハンバーガーの母体である「菱屋海賊船」というステーキレストランでもお手本にされていましたね。「おいしい肉料理を広めよう」という虎店主の思いは、その思いどおり全国に広まっていったというわけです。ちなみに虎店主にお会いになったことはおありで?
Posted by 2年後カフェ計画 at 2006年07月15日 19:27
虎店主?
それはどなたでしょう?

ハングリータイガー式ですが、港北のハングリーで
働いていたときに、向かいのレストランで
似たようなハンバーグを販売しておりました。
味はイマイチでしたが…。

ハンバーグを綺麗に切る、というのは難しく、あそこに入った当時に
教えて頂いた年季の入ったスタッフからは、赤い部分を見せないように
カットするのが良い、と聞きました。

なんてね。
Posted by らいらい at 2006年07月19日 11:33
> 虎店主

サイトに「虎店主の閑談」ありますよ

で、
●「ハングリーバーガー」オリジナル販売(好評販売中)本店保土ヶ谷・大好評により日野店・港北センター南店販売開始

だそうです。
渋目だけど、なかなか美味しいんですよ。
Posted by 2年後カフェ計画 at 2006年07月22日 20:42
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