青山はさみしい街である。賑わいが集中しているのは表参道くらいなもので、あとは通りから一歩また一歩遠のくほどに街の気分が急速に減退してゆき、やがてただの住宅街に迷い込んで、あげく殺風景な千駄ヶ谷に出たり、墓地の脇に抜けたり、車ビュンビュンの六本木通りに行き当たったりするのである。青山は"街"と言うより"一帯"と呼ぶ方が正確だろう。太い幹線道や広大な敷地を有する墓地・公園・大学などによって土地が分断されて、ひどくまとまりがなくなってしまっている。
元々がそれほど人の集まる場所ではなかったのかも知れない。その広大な"空き地"に造られた神社や競技場や霊園は、よく考えるとこれらすべてイベント事(催事)そのものである。そんなイベント施設の周辺に常時露店が軒を並べている――という程度の賑わいが青山の本当のところなのかも知れない。いやだからこそ、一本入った所にひっそりと隠れ家を構えるに足る条件が揃ってもいるのだろうけれど。とにかく――賑わいの上からきちんと蓋をしていなかったがために、どんなに飲んでも騒いでも熱くなってもすぐに冷めてしまう――学生の当時から、私は青山のそんなところがどうも好きになれなかった。
休日の青山はことさらに人影少なく、外苑前で降りて小雨振る青山通りを急ぎ足に歩きながら、通りに面した店の構えをあらためて眺めると……本当に青山なのか? と疑いたくなるような泡沫な商売の店が多く……って失礼ながら。いやいや、青山の商売のメインはオモテでなく、やはりウラでしょ……と言ってもこの辺、裏手にはすぐ青山野球場があって奥行きなし。裏に入り込もうにも入り込む所がない。あわや腐蝕寸前の寂れた街並みを横目に「こんなところにホントにソンナ店があるのか……」と疑念を深めながら前進を続けていると、伊藤忠ビルの向かい辺りでようやく生活のニオイらしきモノが感じ取れるようになってきた。適当な角で曲がると無事目標の店を発見。ちょうど雨が強くなってきたところだったので、逃げ込むように中に入る。
「インディゴ」という店名からは何か重たい印象を受けていたのだが、扉を開けると「都会に居ながらヴァカンス気分を!」をテーマにした店内は確かに南洋のリゾート風。裏路地に面して一応テラス(と言うか手すり)が設けられていて、オープンエアに。木製の引き窓がはまっている。入口の扉も木――この辺り決して安くはないだろう。リゾート気分を演出するデッキチェアに籐の椅子。床は幅の広〜い板張り。柱には藍色と濃い水色のタイルが美しく張られ、突き当たった壁の下にはやはり藍色のロングシートに藍色のダイニングチェア。キッチンを囲む壁には淡い水色のタイル(されどゴッツイ)が施されている。無論、熱帯系観葉植物も。東南エイジアンな香りとマリーナな雰囲気の中間をゆくブレンドの加減が妙に巧い。センスバリバリの尖がったカフェと言うより、ご近所の人が気軽にコーヒーを飲みに入るようなかつての喫茶店の役割を受け継ぐ新感覚イタリアン ダイニング(←ナゼ半角……)。
Indigoバーガー¥1,200「国産牛肉100%!! 1日限定30食のみです」ぐるなびによると「一日限定20個!」……ハテ、どっち? 驚くほどすぐに出て来た。このバーガーがこんな短時間で仕上がるのか……久々に驚いた。付け合せはツナと豆類の入った凝ったサラダに、ちょいアンチョビ風味のフレンチフライ。お供にアイスの「カフェラテ」¥550。フカ系バンズ、表面白ゴマ。皮は非パリパリ、ウェットな食感がバーガー全体のキャラによく合っている。裏バター、ソテードオニ、久々に"ホンモノのパティ"、ベーコン、トマ、折りたたみ式レタスに見事な辛子色のマスタード、バンズ。パティは久々のホンモノ。ここしばらく"ハンバーグ"が続いていたので、正直ホッとした。軽く振られた黒胡椒が時折ピリッと効果的。マスタードは辛さよりも酸味のアシスト。トマトから水分が適度に漏れ出し、バーガー全体に良い潤いを与えている。塩気のキツくない、バランスの良い丸い味のバーガー。BGMはジョディ・ワトリーの「ルッキン・フォー・ア・ニュー・ラヴ」、続いてロス・ロボスの「ラ・バンバ」……無難に80'sヒットチャート有線。
2005.9.29 Y.M