ところは吉祥寺。「ダイヤ街」という、いつ聞いても・何度聞いても変な響きのアーケード街にて――。とあるビルの"いかにも"吉祥寺"らしい"細い階段を上がった2F。明るいクリーム系の色調をメインにした、ポップながら落ち着きある、ゆったりしたカフェ。タテ長な店内、打ちっ放しの床の上にはすっきりモダンなダイニングチェアと明るい木目のテーブル。基本的にどの席も机を引っ付けて4人掛け仕様になってい(たように記憶す)るのが面白いところ。「どうぞお一人様でも遠慮なく、ゆったりとお使い下さい」ってトコでしょうか。
確かに、如何に流行りのオシャレなカフェと言えども、隣との間隔狭く、窮々と押し込められてブロイラー状態……な店というのもこのご時世少なくないので(もちろん人気スポット吉祥寺然り)、その点"距離"や"居心地"に対する気遣いが非常によく図られているように窺がえて、好ましく思った。落ち着いたライティング。白く塗ったコンクリ壁に上向きにバウンスする壁の照明(コーブ照明とも違う模様)、天井からはレフランプが所々強い光を落とす席と、暗目のペンダントが垂れ下がる席とが半々。窓はあるがココも外はアーケードなので、煌々と差し込む光は陽光ではなく、蛍光灯。適度な混み様/空き様で、独り静かに勉強するのにも向きなゆったりした空間。
さて着席とほぼ同時にバングルスの「エジプシャン」が始まる。頭上にBOZEのスピーカーのある席を選んだので、タンバリンの音がシャリシャリとまぁよく響いて……。コノ曲と言うかバングルス、当時はえらく嫌いだった。しかし後年コノ曲を手がけたエンジニア、キース・コーエン氏に出会って以来、手のひらを返すように好きになってしまった、という「私的曰く付き」な一曲。ガールズロックバンドの非力な音色が彼のミックスによってパワフル……に成るべく、最大限の努力を試みたであろう、そんな痕跡の窺がえる曲――というワケでBGMはバングルスのベスト。スタッフも女の子多数、客層も女の子中心。そのちょっと女の子なテイストをバングルスがまた見事に表現しているように思った。己を知ってこそ出来る選曲の妙!
チェダー&モッツァレラバーガーラージ¥820、レギュラーなら¥550。コノ辺りの設定も"女の子対応"か。付け合わせナシ。マスタードマヨネーズと刻んだピクルスが別に器に。「50/50」の印の入ったグラハムバンズ(いまだにアノ焼印の入れ方が解らない)。中身はソテードオニオン、薄いトマト、その下に約束のチーズ×2種、パティ、レタスが敷かれて、下バンズには粒マスタードが。さて食べると何処からともなく現われる、甘〜いフルーティーな味と食感……コレ実はタマネギなのである。いわゆる「キャラメル色になるまで」じーっくりと炒めたタマネギの放つコノ甘味は、いまだかつてどのバーガーでも経験しなかった新種の味覚。グラハムバンズのちょっと野暮ったい食感に加わるパティ=ハンバーグのナツメグ味は正直好きではないが、しかし淡いモッツァレラの旨味とタマネギの甘味とが立ち過ぎず・勝ち過ぎずの良いアクセントになっていて、実にイイ余韻を残す。どこを切ってもポップでスウィートなバーガー。
書き忘れたが、店内早くもハロウィンの飾り付けがされていて、メニューにもカボチャを使ったバーガー/スイーツが登場! この辺も吉祥寺らしい。帰りがけにカボチャを使ったクッキーを1枚もらった――やった! つくづく思うに"いかにもコノ街らしい"お店である。吉祥寺は若者の街だが、しかし同じ若い街=渋谷のようにはスレ切っておらず、若者らしい健全さと純心さを――要は若干の地方色と、そしてイモっぽさを――何処かに持った、そんな街なのである。そうした吉祥寺の若い空気と佇まいを凝縮させたようなところがコノ店にはあるように思えた。老舗カフェの多い場所柄、生き残ること自体、我々の想像をはるかに超える難しさがあるかも知れないが、しかしヨソとは違う、かつなかなかの面白味のあるカフェでイイ時間を送ることが出来て、余ハ満足デアル。そうそう、老舗のお歴々がカレーで売っているのに対抗してバーガーをブツケテきた辺り、バーガー支持者の一人としてエールを送るとともに、その趨勢を興味深く見守りたく……。
※2006年末閉店。カフェの街、喫茶店の街、そして何気にカレーの街……喰いこむことは難しかったですか(2007.7.7)
2005.9.24 Y.M