帝国ホテル
レストラン ユリーカ
カリフォルニア・リゾートをイメージしたカジュアルなレストラン、ユリーカのハンバーガーサンド……一度メニューから消えたのだが、無くなってみると要望が強く、この3月晴れて復帰……なる情報を聞きつけて行ってみたところ、まだない……となればダメ元で聞いてみる他ない。「ハンバーガー食べたいのですが、いただけます?」(ユリーカの)フロントの女性は即答OK!
というワケでむしろメニューにないものをつくってもらう優越感に浸りながら。しかもココはコノ国を代表するホテルの中のホテル――なんという我儘!なんという贅沢!
案内をしてくれたその女性がテーブルを戻してのち言うには「私はチーズをお薦めします。少しニオイがきついですけれど」――なので薦められるままチーズハンバーガーサンド\2,100をカフェオレで。加えて「お時間20,30分かかります」と言い置かれたが、もちろん承知しておりますとも!
どんな帝国流豪華絢爛バーガーが出て来ることかと待ち構えていると、まずは予告どおりプンと強いチーズのニオイ。ややあって視界に入ってきたプレートの上にはビックリするほど分厚いヘヴィ級の肉塊が、それこそゴロンとバン(heel)の上に乗っかっている。
コレは「ハンバーグ」という名前でメニューに載っているものと同じ、通常ナイフとフォークで切って食するモノである。ソレを道具を使わず、口の方からかぶりつきにゆくワケだからなんと下品で無防備な食べ方だろう!
上のバン(crown)と野菜を乗せ、うずたかく積み重なったバーガーはかぶりつくにはどう見ても口のサイズを超えている。そこを無理矢理ガブーっとゆくと……熱ーっ!!パティの中から肉汁が水鉄砲のような勢いで我がクチ目がけて飛び出してきたのである。逃げ場のない熱さ――強烈!!本気でクチの端を火傷。堪らずクチを離すと皿の上にボタボタボターッ……よくもこんなにも大量の肉汁がこのパティの中に封じ込められていたものだ。
ボリュームもさることながらこのパティ、レストランの最高レベルのハンバーグとして全く申し分のない肉感、ニオイ、噛み心地(?)である。もちろんパンの間に挟んで食べるアレンジにも見事にハマっている。
パティの上でとろける……と言うか、薄〜く幕を張ってパティをコーティングするチーズ(つまりコイツがパティ内部の熱の放出を防いでいるワケ……尚のこと熱い!)――食後聞いたらグリエール(グリュイエール。スイス産。エメンタールと混ぜチーズフォンデュの定番)とのこと。なるほど、チーズの溶けた鍋にパティをトプンと落として引き揚げた様なコノ見た目……納得!
フロントの女性が言うにはグリエールはこのユリーカでチーズハンバーガーサンドにしか使わないチーズと。つまりグリエールはこのチーズバーガーのためだけにある――確かにニオイはキツイ。チーズ臭さをさらに強くしたようなニオイ――食べるとさほどでもないが、見た目の通りパティをマイルドに包み込んで味に深みを加えている。
オニオンとトマトは目立った活躍もないが、レタスはシャリシャリいう食感を常に刻んでいた。きっとガルガンチュワで焼いているであろうバンズはイギリスパンなんかに似た、やや湿った感じの表面。焼いてはあるがパリッとはしていない。中は気泡のあるスポンジ状だがパサつきはなく、弾力が気持ちいい。裏にバター。
下のバン(heel)は例の多量の肉汁を前に限界線を超え、崩壊。付け合せはフレンチフライ、塩味の刺激的なブラックオリーブ、中に詰め物されたマイルドなグリーンオリーブ、そしてコーニッションだかガーキンスだか、とにかく小さなきゅうりのピクルス。結局中身はパティ、チーズ、オニオンスライス、トマト、レタス――以上。実にシンプルでオーソドックス。
このハンバーガーという料理、1.食材をタテに積み重ねた食べ物である→あっという間に消えてなくなる、2.熱い食べ物である→冷めないうちに次々口に運ばねばならない……そんなこともあって、食べている間というのははしたないまでに短い。
もう少し間を置きながら食べようとは思うのだが、どうしても次々いってしまう。ただでさえ食べにくいこの食べ物に必死の形相でかぶりつく、その格闘の瞬間に体温は知らずと上昇し、頭に血が上って、気が付けばどうも一種興奮状態に達しているようだ。アドレナリン全開!独りカッと熱くなり、カッと口を開けて食べている。
"素手に口"という超ダイレクトな食は、ある種原始的興奮をもたらすものなのかも知れない。そういう意味でコノ食べ方に文化など皆無。日本を代表するホテルの中心で、手と口の周りをベッタベタに汚しながらムサボリ食べる行為が公然と許されようとは……そこにある種特権的な悦楽を見出してしまった私であった――。
§ §
さて食後……例のフロントの女性が席を立つ私を見てわざわざ話しかけてきてくれた――美味しかったですか?にはじまりチーズの話、焼き方の話など。さらに彼女は「私はこの店のあらゆるメニューの中でチーズバーガーが一番好きなんです」と言う。「でもこちらならもっと有名なメニューがたくさんあるでしょう?」と返すと「ええ、でも私はお客様に『オススメは何ですか?』と聞かれたら、迷わず『チーズバーガーサンドです!』とお答えしています」と言うのである。
どのメニューが一番美味しいか――その辺りのことはさておいて、これだけ胸を張って言い切れるとは素晴らしい!今は休止中のそのメニューを頼んで来た(=お目が高い?)客が居たことがよほど嬉しかったのか、はたまた最高級ホテルならではの味なリップサービスなのかは分らないけれど、とにかくそこまで言い切られて悪い気などする筈もない。意気揚々とホテルを後にした。
BGM――店内無音。4月のメニュー改編で復活するとか。今はメニューにないので伝票には「FOOD OTHER」。
※'07年1月4日の朝食をもって、閉店です。改修工事を経て3月末に新店舗オープンとのこと。とりあえず3月末まで待ちますか……(2007.1.7)
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