最近思ったこと――よくテレビや雑誌から「変わったハンバーガーないですか?」「変わり種ないですか?」と訊かれます。毎度訊かれます。そのことについて以下……。
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例えばそれが「カレー」なら、家庭料理の定番中の定番として家でも頻繁に作ります。学校の授業でも、キャンプでも、まず大抵の人が作ったことのある食べ物です。ですから「実はカレーがおいしい中華料理屋」みたいなことも起き得るワケです。
中華料理屋の本業は「中華」を作ることですが、カレーも当然作れて、かつ、中華屋ならではのアレンジを加えた「変わり種」のひとつもメニューのレパートリーにあって――というのが不思議ではないくらい、カレーという食べ物は「食べること」も「作ることも」どちらも当り前な、身近な食べ物であるワケです。
スパゲッティとか、唐揚げとか、ハンバー「グ」もそれに当たるでしょう。そういう「誰もが作るもの」「作り方を知っているもの」だからこそ、変わり種や突然変異的な奇抜なアイデアメニューも生まれるワケです。
一方、ハンバーガーという食べ物は自分で作ること・家で作ることがまだ一般的ではありません。全国的に見れば「チェーン店で食べるもの」というイメージがいまだに強いです。マックかモスしか知らない人の方が圧倒的でしょう。つまり、カレーやラーメンなどと比べると「食べ歩きグルメ」としてのハンバーガーはまだまだ後発だということです。「家庭料理」としてのハンバーガーも然り。
「作る」ことが一般的でないということは、つまり「中華料理屋が作るハンバーガーが実はおいしい」といったことが起きにくいということです。カレーやラーメンほどに一般に広まった=成熟した食べ物なら、「裏メニュ―のカレーがおいしい」とか「斬新な食べ方のラーメンがある」いうことは起こり得ます。ぐるっと一周まわってますから。しかし「グルメとしての」ハンバーガーはまだその域に達していないワケです。いまだ成長途中、発達途中にあるワケです。
ですので、成熟し切る前の現段階において「変わり種」のバーガーがもしあるとしたら、それは多分おいしくないです。ネタになるような面白いバーガーかも知れませんが、決しておいしくはないでしょう。なぜなら、日常誰もが作る習慣の中から生まれたものではないからです。成熟し切った中から生まれたものではないからです。
一方、専門店が作るハンバーガーは現在の最新・最高の技術によって作られたものです。しかもその技術は常に進化しています。「一般」と「専門店」との間には知識と技術の開きがものすごくあるワケです。ですので「中華料理屋が作る裏メニューのバーガーがおいしい」といった期待はまぁ幻想です。ないしは「願望」に過ぎません。あいにくながら。
そんな中、その現在最高・最新の技術にしっかり基づきつつ、凄まじく斬新なバーガーメニューを生み出している店が東京・両国のshake tree(シェイクツリー)です。
「ワイルドアウト」然り「ダンカーズ」然り、食べ方そのものに変革をもたらすようなメニューを次々と生み出していますが、但しシェイクツリーのような店は極めて「例外」です。こんな奇抜なハンバーガーを出している店が「他にもある」とは考えない方がよいでしょう。シェイクツリー「の」発想力が異常なのです。「奇跡」と言ってよい。他の多くのバーガー店もそしてまたシェイクツリーも、基本は、ごくオーソドックスなハンバーガーを手づくりで「如何においしく作るか」ということに日々励んでいます。それが「普通」です。
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奇抜さや斬新さ、変わり種ばかりを追っていると「通常」や「基本」は何なのかを見失いがちになります。一個千円するハンバーガーを知らない人がまだまだ日本全国・津々浦々にこれだけたくさんいる中で、いきなり「変わり種」から紹介を始めると、ものすごくいびつな、ゆがんだ情報発信になってしまいます。まずは一個千円する専門店のバーガーがどんなものであるかをしっかり正確に伝えること、それだけでも十分意味あることではないでしょうか。
2018.1.31 Y.M